生命保険・医療保険 について

2019年10月19日

生命保険・医療保険は”自身の未来の不幸に対する賭け”

近頃、(民間の)生命保険・医療保険にまつわるトラブルを、よく患者さんから耳にします。

具体的には、以下の様な事柄です。

1)これまで入っていた生命保険・医療保険が、「精神疾患になったため、あるいは精神科薬物を服用しているため、継続できない」と言われてしまった。

2)生命保険・医療保険に入りたいと思ったが、精神疾患であること、あるいは精神科薬物を服用していることを理由に断られた、あるいは法外な価格設定の保険に誘導された。

3)新しく住宅を買いたいと思い、銀行に融資を依頼したところ、「団信(団体信用生命保険)が必要です」といわれた。しかし、精神疾患であること、あるいは精神科薬物を服用していることを理由に、団信に加入できず、結果借り入れができず、住宅購入もできなくなった。(※団体信用生命保険とは、住宅ローンを組んだ方が死亡またはある種の高度障害状態になったとき、その保険金で住宅ローンを返済することを目的とした生命保険)

これらは確かに悩ましい問題です。

精神疾患を患っておられる方は、ただでさえ身体的ハンディがあるのに、このような社会的ハンディがあっては本当に苦しい。

ただし、このようなことになるから、精神科には通わない、薬は飲まないという発想は、非常に危険です。
また、精神疾患であることや、精神科薬物の服薬を隠蔽するのも、まずいです。後で、虚偽申告が判明したら、肝心な保険金がその事をたてに払ってもらえなくなります。(保険会社もできるだけ払いたくないわけですから、このあたりは厳しくチェックしてきます。実際にこのような事態になり、これまで収めた保険料がパーになったことから、ひどいうつ状態になってしまったというようなケースに、私自身幾度か遭遇したことがあります)

では、どうするべきか。

以下に、これらについて私の考えをお伝えしましょう。(もちろんこれが、絶対の正解ではありません。ただ、決して”絶望的な状況”ではないことをお示ししたいのです)

まず、保険に入るということは、人生において何が何でも必要なことなのでしょうか。

保険というものは、死亡とか重篤な疾患(例えば、がんや脳卒中・心筋梗塞)に遭遇したときに、お金がもたらされるのですから、平たく言えば、「自身の未来の不幸に対する賭け」のようなものです。

これはちょうど、宝くじの裏返しになります。
宝くじで当たりを引くラッキーな人は、元金が100円でも、1億円とかもらえる。保険で”当たりを引くラッキーな人”とは、”早く死んでしまう”といったような、通常の人生においてはむしろアンラッキーな人ということになります。

ちなみに宝くじは還元率がかなり悪い”賭け”で、50%を切っています。
つまり”胴元”(賭博用語です。少し表現が良くないですが、分かりやすいと思うので、あえてこう表現しておきます)の●●銀行に、還元されないお金が50%以上残されることになります。

もちろん、保険においても”胴元”はおります。それが、保険会社です。

医療保険などでは、これまでの統計に基づき保険金が支払われており、原則保険会社が損をしない構造になっています。(保険会社が営利企業であるゆえ、当たり前のことです。すなわち卑俗な言葉で表現するなら、”賭場”において”胴元”は必ず”寺銭”を稼ぎ出し、決して損をしない、ということです)

私は個人的に、保険があまり好きではありません。

それは、以下の理由からです。

1)人生のあらゆる局面が”賭け”であるのに、あえて人工的な賭けをする必要はないと考えている。

2)”賭け”にしては、あまりに分が悪すぎる。

3)「自身の未来の不幸に対して賭け」ることが、どうも性に合わない。

そのためいつも、最小限に加入しようと考えています。

では、その私の考える”最小限”とは、どのような基準から導き出されるものか。

それは、「その保険なくしては、人生の立て直しが不能なレベルに陥る恐れがある場合」に限り、絶対に必要なものだと考えています。

具体的に、例を挙げましょう。

例えば、自動車の任意保険について。

”対人対物無制限”という絶対条件がありますが、これなどはドライバーであるなら絶対に必要なものです。
不幸にも人を巻き込んだ大きな事故を引き起こした場合、(※もちろん、相手の方の人生に多大な影響を及ぼすことの問題もありますが、ここではそのことについては措いておきます)このような保険なくしては、人生はジエンドです。

それに対し、車両保険というものがあります。

これは例えば200万円で買った車が、何らかの理由で損壊した場合、最大200万円まで保証され、再度同レベルの車を手に入れられるというものです。

私の考えでは、これは特に必要ないものです。

もし車両損壊で200万円が出されなくて、人生が立ち行かない人であるなら、そもそも200万はその人にとってかなり大金なわけですから、そのような高い車に手を出すべきではないということです。

翻ってみるに、生命保険・医療保険はどうか。

生命保険≒自動車任意保険の対人対物無制限

医療保険≒車両保険

ということになります。

すなわち、後に残された家族が立ちゆかなくなるリスクの大きさから、ある程度の生命保険は必須です。

が、医療保険は特に必要ない、というのが私の考えです。

医療保険に入って、保険会社に”寺銭”を取られるくらいなら、コツコツ貯金をする方がいいのではないか、と考えています。

生命保険・医療保険についてですが、だいたいかなり高額なのが医療保険の方で、生命保険はそれほどの掛け金にならないことが多い。すなわち、医療保険など「入れてあげない」といわれたなら、そう落胆しないで、「貯蓄した方が、トータルでずっと多くのお金が残る」と考えるべきでしょう。

まして、特別に高額の保険料を要する医療保険など、絶対に入るべきではありません。

団信に入れないがために、借金ができず、結果新しい住宅が買えない、というのは確かに辛いことでしょう。

しかし、今の世にあって、借金して新しい住宅を買うのは、どれほどのリスクか、今一度考えてみる必要があります。

  • 今後の日本で右肩上がりの好景気は見込みにくい。人口も確実に減り、住宅需要も減る一方。不動産を持って上がる可能性より、下がる可能性の方がはるかに高い。
  • 健康を害する危険だけでなく、会社倒産やリストラの危険も高まっている社会で、35年ローンを組むことができたとしても、将来貸し剥がしに合う危険はないのか。
  • 住宅は、それ自体がお金を生み出す施設(投資物件)ではなく、消費物の一種であり、そのために数千万の借金をしても大丈夫か。

最後は何だか、暗い話になってしまいましたが、そこまで考えて行動しないといけない時代が来ていることについては、常にこころに留めておかれるのがいいでしょう。(バブル崩壊後、借金の貸し剥がしで悲惨な目に合ったケースを数多見てきました。このようなことは、非現実なことではないのです)

皆さんは、たまたま精神疾患になられたがために、保険会社や銀行などからこのように嫌な思いをさせられたわけですが、早く思い知らされることで、人生における金銭運用についてしっかりとした自意識が育つきっかけになるとも言え、むしろ好ましいことなのかもしれない、と私は考えます。

これは、人生が一見順風満帆である人々にとっては”どこ吹く風”でしょうが、このような楽天家は、時として皆さんが今行っている”こころの準備”で遅れを取ってしまい、後で苦しみが倍加することもあるのですから「人間万事塞翁が馬」、何が幸か不幸かわからないものです。

<※参考>

2015.12.「労働安全衛生法」法令改正 ~私たち、あいち熊木クリニック「ビジネスマン(ストレスチェック)外来」にできること~

新型うつ病に伴う、独特の苦しさ・・(会社経営者・管理者の方への提言)

精神科主治医は何を守り、会社産業医は何を守るのか

2013.道路交通法改正・自動車運転死傷行為処罰法成立に伴って、 ドライバー・家族に是非理解しておいていただきたいこと (重要!)

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