ビジネスマン(ストレスチェック)外来 について

2019年10月19日

2015.12「労働安全衛生法」法令改正|私たち、あいち熊木クリニック「ビジネスマン(ストレスチェック)外来」にできること

まず、最近声高に叫ばれるようになった「ストレスチェック」について、ご説明します。
「ストレスチェック」とは、厚生労働省が「労働安全衛生法」の法令改正により、2015.12.から、50名以上の労働者を有する会社・事務所での実施を義務付けたものです。
これは、労働者のストレス状況をあらかじめチェックすることで、労働者のメンタルケアや職場の環境改善などにつなげ、「うつ病」「パニック障害」や「ギャンブル依存症」といった精神疾患発症を未然に防ぐことを目指したものです。
もとはといえば、ここ十数年の間、中高年を中心として日本全体の自殺者が年間3万人にも達しており、その改善が喫緊の課題として取り上げられていたことにあります。

ところでここ、あいち熊木クリニック(心療内科・精神科)では、「ビジネスマン(ストレスチェック)外来」があります。
これは、ビジネスマン(ビジネスウーマン)ご自身のメンタルケアを行うことは言うに及ばず、ご本人が所属されている会社人事部・直属上司・会社産業医の方々との連携も想定しております。

当院では「ストレスチェック」自体を行うことはありませんが、その「ストレスチェック」によって分かった「高ストレス者」(自覚症状が高い方や、自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い方)に対する社外での面接指導、さらにそれが不十分だと見なされる場合の治療までを担います(健康保険適用)。
高ストレス者ご本人からのご依頼でも、会社の管理者からのご依頼でも、引き受けます。

(ただし最終的に、高ストレス者ご本人の面接同意・治療同意がなくてはなりません。また、あいち熊木クリニックでの相談者・患者さんとなる方々に不利益となる情報提供を、上記に挙げた会社の管理者の方々に対し、原則として行えません。あくまで、相談者・患者さんの利益を最優先します。この点に付き、あらかじめご了承ください)

以下、それぞれの立場の方々への、当院からのメッセージです。
(あいち熊木クリニックで、具体的に行えることをお示ししております。なおいずれも、あいち熊木クリニック院内で行います)

1:ビジネスマン(ビジネスウーマン)のあなたへ

厚生労働省が行った先の予備調査で、ビジネスマン(ビジネスウーマン)全体のおよそ一割が「高ストレス者」に該当すると推定されています。
ちなみに、2015年の日本の全就業者人口は6360万人(IMF推定)。
そのうち、2015年の正規雇用者割合は62.6%(総務省統計局「労働力調査」より)。
すなわち、2015年の全正規雇用者数は、3981万人ということになります。
このうち一割が「高ストレス者」であるなら、およそ400万人がそれに該当します。
これは驚嘆すべき数字です。(※ここではそのことについて触れませんが、一方の非正規雇用者も2379万人おられ、こちらの精神保健の問題も大変深刻です)

「高ストレス者」は、うつ病・パニック障害など様々な精神疾患患者の予備軍といえ、なかには既に発症している方もいるはずです。このような状況そしてあなたの体調をそのまま放置していれば、やがて発症・症状の悪化を招くことは必定でしょう。

そのため今後、ストレスチェックは積極的に受けておくことをお勧めします。
ストレスチェックには今のところ、社員に受検義務はありませんが、身体の健康診断を毎年受けるのが当たり前のように、メンタルチェックを定期的に行うことは、やがて当たり前のこととなっていくでしょう。
受検した結果は、本人のみに直接通知され、事業者サイドにはもたらされません。
また「高ストレス者」と認定された場合、そのことを事業者に直接申し出ると、医師(主に会社産業医)による面接指導が受けられます。

そして社員本人が同意した場合に限り、事業者はその医師から意見聴取することができます。(その結果を受けて、社員に対して不利益処遇を行うことは、厳に禁じられています)
そして必要に応じて、事業者側から就業上の改善策を提案され、実施されることになります。

ここで、大切なことを確認しておきます。

このたびの「労働安全衛生法」の法令改正はあくまで、労働者の権利を守るための法令改正です。
そのため、ストレスチェックによって、事業者サイドにあなたにとって不都合な情報が知られることをおびえる必要はありません。医師による面接指導も、事業者側からの就業環境の改善提案も、社員であるあなた達の”権利”だと理解しておく必要があります。

ただし、一点落とし穴があります。

会社で行われるストレスチェックは、メンタルヘルス問題の発生の一次予防策と位置づけられるもので、これ自体にうつなどのメンタル不調の洗い出し機能はない、ということです。
すなわち、ストレスチェックの医師面接は、基本的に医療行為ではありません
よって、診察や病名診断および治療は行われないのです。(また産業医全体で、精神科医の占める割合は5.2%に過ぎない、というデータもあります。すなわち、社内で面接指導を司る医師のうちほとんどは、メンタルケアの専門家ではないのです)

身体の健康診断で問題が発生した場合、医療機関で精密検査を行うことが要請されるように、「高ストレス者」と判定された場合、やはり精神科・心療内科クリニックや病院で、診療を受ける必要があります。
これには若干の”勇気”が必要かもしれませんが、こじれないうちに早期治療を行うことが重要であることは、身体疾患・精神疾患いずれにおいても違いはありません。

2:企業の管理職・人事担当の方々へ

今回の法令改正において、事業者サイドの雇用者管理責任は、ますます大きなものとなります。

社員の意向を無視したストレスチェックの実施は、当然のことながら行えませんが、だからといって「高ストレス者」と思しき社員への注意を怠り、自死などの最悪の結果を招いた場合、管理職・人事担当の方々の管理責任が問われるようになることは大いに考えられることです。
ゆえにこういった方々にも、ある程度の精神医学的知識が求められる時代になったといえます。

しかし雇用者管理責任は、何もストレスチェックだけではありません。
自身が膨大な業務を抱えているにも関わらず、このような事柄にも目を向けなければならない、非常に過酷な状況を迎えているといえます。

それゆえ、強制できることではありませんが、時として「高ストレス者」ないしはそれと思しき部下に、心療内科への受診を促すことは、重要なこととなるのではないでしょうか。
専門家に委ねることで、享受できる安心は計り知れません。

3:会社産業医の方々へ

「会社産業医は、数社のかけもちが当たり前」という現状にあって、今回の「労働安全衛生法」の法令改正は、産業医の先生方の業務が殺人的に増え、その責任が無際限に増大することが予想され、先生方の悲鳴が聞こえてきそうです。
そのため、法令施行前に、「ストレスチェックの実施は決して行わない」と機先を制した産業医の先生方も少なくないと聞きます。

今後どう展開するか分からないのに、それらの責任を全面的に負うことが不安だということは、よく理解できます。また産業医全体で、メンタルヘルスの専門家は5.2%に過ぎない、という現状、先生方の戸惑いが大きいのは無理からぬことです。

「ストレスチェックの医師面接は、基本的に医療行為ではない。単なるメンタルヘルス問題の発生の一次予防策」と言ったところで、実際にそれに関われば、知らぬ存ぜぬでは済まされない。
本当につらいお立場だと思います。

このような時代にあって、社員のメンタルケアに粘り強く付き合ってこられた産業医の先生方には頭が下がりますが、それを続けていると、早晩持ちこたえきれなくなるでしょう。(「高ストレス者」は、会社全体のおよそ一割と想定されているのです)

誰よりも社内の労働環境を知る先生方にしかできないこと、それは社員の就業環境の改善案提示です。

そしてもし、「高ストレス者」の面接指導をされた際、「これは専門的治療が必要」と判断された場合、早々に心療内科にご相談いただくことが望ましいでしょう。
(会社の利益と社員の利益の板挟みに合い、葛藤にあえいでおられる産業医の先生は少なくないのです)

いかがでしょうか。
もし、あいち熊木クリニックからのこれらのメッセージにご賛同いただけるようでしたら、私たちにお手伝いできることはあると思います。
どうぞお気軽に、ご相談ください。

<※参考>

新型うつ病に伴う、独特の苦しさ・・(会社経営者・管理者の方への提言)

精神科主治医は何を守り、会社産業医は何を守るのか

生命保険・医療保険は、”自身の未来の不幸に対する賭け”

2013.道路交通法改正・自動車運転死傷行為処罰法成立に伴って、 ドライバー・家族に是非理解しておいていただきたいこと (重要!)

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