歯ぎしり についてのQ&A

2019年10月19日

歯ぎしり・顎関節症についてのQ&A|精神科医からの見立て

Q:眠剤と知っていて(たぶん)服用したので、飲んだら眠くなると信じて、今でも服用中です。

他の安定剤だけで飲んでいた時より、よく眠れる気はしますが、自分自身、“眠り”での悩みはなかったので、飲む前は少し抵抗がありましたが、今では普通に飲めています。

実際の効き目は、本当は分かりません。

歯科で歯ぎしりの可能性があるのでマウスピースを作成したことを先生にお伝えしたら、眠りの改善をする為と言われて出されました。

今は、歯ぎしりがなくなったのでマウスピースをしていませんが、薬はのんでいます。(3916 ゆりかごさん)


A:歯ぎしりが問題となる方は、案外少なくありません。

ここで、歯ぎしりについて簡単にまとめておきます。
言うまでもないことですが、歯ぎしり治療については、これまで口腔外科・歯科を中心に行われてきました。

歯ぎしりはいくつかの種類に分けて考えられています。

それはグラインディング(ギリギリ歯を擦りあわす)・クレンチング(音を鳴らさず、上下に強く噛みしめる)・タッピング(歯をカチカチ重ね打つ)といったようなものです。

一般的に歯ぎしりとして認識されているものは、グラインディングになります。

歯ぎしりをしてしまうことの問題点は数多くありますが、ここでは直接歯にまつわる問題(歯が割れる、歯周病の進行など)については、あえて詳しく触れません。精神科外来で問題となり、治療を行っているものを紹介しましょう。

例えば、肩こり・首コリ・筋緊張性頭痛など、口回りの筋群の緊張持続により引き起こされる症状。
そして噛みしめすぎることから起こる顎関節症。

また夜間の歯ぎしりについては、先に述べた悪夢や中途覚醒の問題も絡んできます。(悪夢を見るため噛みしめすぎてしまうのか、逆に噛みしめすぎるため悪夢につながるのか、判然としません。しかし、それらはよく併存して見られます。寝言・夜驚(夜の叫び)・夢遊といった症状も、同じく併存しやすいものといえます)

先ほどの悪夢と同様、夜間の歯ぎしりも、日常意識レベルでは消化しきれず、睡眠時の無意識下に溢れてきたストレス(のようなもの)を消化し解毒する役目を果たしている印象です。

夢作業に擬えるなら、「歯ぎしり作業」ということになりましょうか。

すなわち歯ぎしりも、ストレスコーピングの一種と捉えることができ、ある程度であれば有害なものでないといえます。

問題となる歯ぎしりは、肩こり・首コリ・筋緊張性頭痛・顎関節症などが起こり、それらが慢性的に推移し、さらには悪化していくような場合です。

では、こういった状況に対して、成しうる治療はどのようなものか。

口腔外科・歯科では、歯や歯茎を物理的に守るため、マウスピースが使われています。
これは、装着時に歯を守ることだけが目的ではなく、口腔内の安定・安心を引き出し、ストレス軽減を行うことにも資するとされています。

しかし、その”頼みの綱”のマウスピースさえ、噛みつぶしてしまう剛の者も、精神科外来では少なくありません。こうなると、顎関節への悪影響は不可避となり、顎関節症の悪化は免れません。

では、精神科で行える治療は何なのか。

歯ぎしりは、不安状態を体現するものであり、ひとたび歯ぎしりするようになると、不安感が強化され、いわば歯ぎしり中毒といった嗜癖になるものと考えられます。(近年、TCHが問題とされています。TCHとは、”Tooth Contacting Habit”(歯列接触癖)のことで、上下を連続的に接触させる癖を指します。
上下歯は安静時には接触していないのが正常であって、歯と歯の接触が常態化すると、本来送られるべきでない異常信号が絶えず脳神経に送られ、身体の緊張が引き起こされます。そしてそれがまた、歯の接触・噛みしめを促進するという悪循環にはまる、という構造です)

この症状が症状を呼んでくるという”悪の連鎖”を断ち切らなくてはなりません。

認知行動療法などの精神療法も、ある程度の成果は期待できますが、無意識的な振る舞いである歯ぎしりを意識上にのぼせ対処行動を訓練づけることは、なかなか容易ではありません。

そこで、精神科薬物の登場です。

私の経験では、セパゾンの就寝前投与(通常1-2mg)を行うと、かなりの確率で歯ぎしりが消退します

この薬物は、抗不安作用と同時に筋弛緩作用も大きく、また長期型抗不安薬であるため、一晩通して心身の緊張を和らげるのに好適です。(長期型抗不安薬は連用しても、比較的依存しにくいことも、好都合です)

また、強迫性に対してもある程度効果が認められているため、先述した「歯ぎしり中毒」のような嗜癖からくる悪循環を断つことにも寄与します。

ゆりかごさんは効果のよく分からないと話されていますが、「今は、歯ぎしりがなくなったのでマウスピースをしていませんが、薬はのんでいます」ということですので、セパゾンは歯ぎしり消退に役立ったと考えるのが妥当ではないでしょうか。

<※参考>

『自宅で暴れまわる我が子』 (「発達障害」<ADHD/アスペルガー症候群など>についての臨床相談)

重症チック症・多発性チック症(および、トゥレット症候群・どもり(吃音症)・抜毛癖(抜毛症・トリコチロマニア)・爪かみ・歯ぎしり・貧乏ゆすり)の薬物療法(漢方薬・精神科薬物)

夜尿症(遺尿症)・・・あいち熊木クリニックの漢方治療・精神科的治療

熊木による書籍紹介『自閉症スペクトラムの精神病理』内海健(医学書院)


『警察が私を陥れようとする!』 (「パラノイア」についての臨床相談)

「ビルに飛行機をぶつけたの、あれは私の叔母の仕業です」

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