呑気症 について

2019年10月18日

「呑気症」との自覚に至るのに10年もの年月がかかる?

「呑気」(どんき)っていう言葉、ご存知ですか?
空気を呑む(のむ)ことを指して、そう言います。

緊張すると、「息を呑む」といいますね。
一時的に、無呼吸の状態になり、ゴクリと唾を飲み込むようなこと、誰しも経験があると思います。
しかし、よほどの緊張状態でない限り、息を呑む瞬間に自覚的になることは難しいものです。

恒常的な緊張・ストレスから、(ほぼ無意識に)空気を飲み続ける場合、これを「呑気症」と呼びます。
とはいえ、この「呑気症」、自ら病識をもつ人が非常に少ないのが特徴なのです。

大抵の場合「呑気症」は、げっぷが出る・お腹が張る・腹痛がする・ガスがよく出る(IBS(過敏性腸症候群)も合併します)という「呑気」の”結果”としての症状が自覚され、消化器内科や耳鼻咽喉科に訪れることとなります。
そこで、呑気をよく知らないドクターに遭遇してしまうと、「検査しても異常がない」といわれ、あちこちの病院・クリニックをさすらうことになってしまうのです。

「呑気症」は、専門的には別の名で呼ばれます。
それは「噛みしめ呑気症候群」。

私自身、先にQ&Aで、「歯ぎしり・顎関節症」について答えています。
まずは、それをお読みください。
kimo.dr-kumaki.net/hagishiri/

歯ぎしりと噛みしめは類縁症状です。
この2つの症状は、派生的にいろいろな症状を生み出します。
顎関節症もそうであるし、また呑気症もそうであるといえます。

「噛みしめ呑気症候群」と呼ばれる理由、それは噛みしめと呑気は一連の動作として起こるものだからです。
(この口腔内のメカニズムについては、耳鼻咽喉科および口腔外科のドクターが詳しいでしょう。
その解説については、ここでは措くことにします)

「呑気症」はまず何より、患者さん自身が病識を持てるようになることが一番大事です。
そうでなくては、なかなかどうにもならない。

そこで一つ、あなたに覚えておいて欲しいことがあります。
「腹部の不調を消化器内科で検査しても、何ら異常がない場合、心療内科の受診を検討してみる」ということです。
さらにいうなら、心療内科とはいえ、呑気症をよく知るドクターでなければいけません。
ゆえに、「心療内科 呑気症」などで検索し、呑気症について論説を行っている人にかかるのがよいでしょう。

では具体的に、心療内科では「呑気症」に対して、どのようなアプローチを行っているのでしょうか。

私の場合、呑気症については、おおまかに分けて、2方向から加療するべきだと考えています。

1)腹部症状の改善
呑気症とはいえ、人により症状の出方は様々です。
腹痛が強い人、ガスが連発する人、便秘と下痢が繰り返す人、げっぷが主症状の人・・・。
私はそれぞれに応じて、漢方を用いることが多いです。
例えば、冷えると便秘になる傾向が強く、腸の蠕動が弱く、ガスがたまりやすいという人には、大建中湯。
同じガスが溜まる人でも、腹痛が強く、腹直筋の張りが顕著な人は、小建中湯、といった具合に。
場合によっては、西洋薬(の胃腸薬)を用いることもあります。

2)緊張の改善・ストレスからの解放
これには、心理カウンセリングが有効です。
先述の通り、呑気症患者さんでは、特に病識がうすい人が多い(くわえて、身体感覚が鈍い人も多い)ため、そこに働きかけていくこと自体が治療になります。
また侮りがたいのが、向精神薬(精神科薬物)の薬効です。
緊張が常態化している人の場合、脳のアンテナがいつもビンビン状態になっています。
このアンテナの感度を緩めるのに、非常に効果の高い薬剤があります。
なお、この種の薬物は、依存性がほとんどないというメリットがあります。
うまく身体に馴染む人だと、本当に楽になり、腹部症状だけでなく、頭痛や肩こりもかなり緩和されます。
一度試してみる価値はあるでしょう。

「呑気症」とおぼしき状態で苦しんでおられる方、何かご提案できるかもしれません。
また、まわりにそのようなことで苦しんでおられる方を知っている方、この文章をお見せいただけると嬉しいです。

この病気、自覚に至るまでに時間がかかるため、当院を訪ねてこられるまでに、かなり長い罹病期間を経た方が多い印象です。(なかには、10年以上という方も、少なくありません)
一人でも多くの方が、早く楽になられるよう、お手伝いしたいと思います。

<※参考>

『自宅で暴れまわる我が子』 (「発達障害」<ADHD/アスペルガー症候群など>についての臨床相談)

重症チック症・多発性チック症(および、トゥレット症候群・どもり(吃音症)・抜毛癖(抜毛症・トリコチロマニア)・爪かみ・歯ぎしり・貧乏ゆすり)の薬物療法(漢方薬・精神科薬物)

夜尿症(遺尿症)・・・あいち熊木クリニックの漢方治療・精神科的治療

熊木による書籍紹介『自閉症スペクトラムの精神病理』内海健(医学書院)


『警察が私を陥れようとする!』 (「パラノイア」についての臨床相談)

「ビルに飛行機をぶつけたの、あれは私の叔母の仕業です」

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