患者さんと共に、“勇気を持って翔ぶ”ということ

2019年10月19日

2012年11月をもって、私熊木は初診患者さん10000人との出会いを果たしました(概算ではありますが)。

そしてまた現在も、その数字を更新し続けています。

 

初診から数回で来院されなくなった残念なケースもありますが、

その一方で、15年以上治療関係を継続している古参の方もおります。

この場合、私が転勤するたびにその先々の病院・クリニック(都会の病院だけでなく、相当へんぴな病院もある)についてきていただいているケースも稀ではなく、まったく頭の下がる思いです。

 

治療関係は、病に対し精神科医=患者さんが“共闘”するようなかたちをとる場合もありますが、

私の治療はどちらかといえば、患者さんの身体が怒り狂っている状態を、患者さん共々なだめ、その怒りを解き、そして“鎮魂”するというようなイメージのものです。

すなわち、病根をえぐり取るといった外科的イメージではなく、病いのもたらす苦痛をなるべく取り去り、病んだ身体であってもそのポテンシャル(可能性としての力)を最大化するよう働きかけ、安楽なまま天寿を全うすることを目指すものです。

 

これまで、10000人もの患者さんの初診を引き受けてきたのに、未だに初診に臨むときは独特の緊張感があるし、神経が研ぎ澄まされピリピリすることもあるし、決して楽に終えることができません。

すなわち、“慣れ”が一向に生じないのです。

 

当然のことながら、何も知らなかった研修医の頃と現在とでは、患者さんから感受する事柄の質と量が違います。

研修医の頃は、少しでも感受できることを増やすことに血道を上げていた。

しかし今は、患者さんの側から押し寄せる情報・感得する暗黙知の中から、何を精選して掬い取るか、そこに神経を集中させています。

 

診療のかたちは確かに変わってきている。

しかしこの期に及んでも、人生や疾患のかたちにはあきれるほど多くのバリエーションがあり、「こんな人が世の中に存在するのか」「こんな苦しみのかたちがあるのか」「こんなものの考え方があるのか」と、常に驚きを禁じ得ません。

 

そしてそのたびに、かつてどこかで出会った患者さんの病状やその他の何ものかを想起し、「ああでもないこうでもない」とアナロジカルに引き比べることの連続。

さらに、患者さんにかけるべき適切な言葉を探して、我が脳内をまさぐり呻吟するのです。

 

私はよく「初診は短距離走、再診はマラソン」と言います。

初診の30-40分は、息を詰めて一気に走りきる印象です。

まさに真剣勝負のような様相。

このような初診で、私と対峙する患者さんも相当疲れると思いますが、同様に初診を終えた私自身、精気を吸われたようにぐったりします。

 

「こんなこと、いつまで続けられるのだろう」という一抹の不安がなくはないのですが、

あまり先のことは考えても仕方ない、と割り切って考えることにしています。

 

それより、私の敬愛するO先生(私より30年上の大先輩である開業精神科医)が

「初診はとても疲れるけれど、いまだにおもしろくてしょうがないんだよ。

この好奇心が続く限り、精神科医を辞めないと思う」とおっしゃったのを聞き、

「我が意を得たり!」ととても嬉しくなりました。

 

「日暮れて道通し」という言葉がありますが、まさにO先生の心境をぴったり表現する言葉のように感じます。

私はまだ“日が暮れていない(はず)”ですので、道がうんと遠いのは当たり前。

患者さんとともに、研鑽する日々を“楽しむ(語弊があるかもしれませんが)”精神科医でありたい、そう思います。

 

確かにさまざまな意味で難しい患者さんがおられます。

一介の開業精神科医である私が、クリニックという制約のある環境で、果たしてどこまで治せるか、いくらかでも改善を果たせるか、そもそもこのケースを本当に引き受けて良いのか、まったく迷いがないといえば嘘になります。

 

今後も、ご依頼に全部お応えすることは残念ながらできないでしょう。

あまりにも勝算が見込めないケースに踏み込むのは、勇気ではなく、暴挙というものでしょう。

でももしあなたが、「こんなケース、見たことがないなあ」と他院で首をかしげられて、とりつく島もないと途方に暮れているのであれば、一度当院にアプローチしてみてください。

私たちが関われるものかどうか、よく吟味させていただいた上で、“勇気を持って翔ぶ”ことを選択させていただくことがあるかもしれません。

 

現在私の専門のひとつとなっているパチンコ(パチスロ)依存症やトゥレット症候群(重症チック)などの治療も、最初はそうしたものでした。

今はまだその治療は不完全であるかもしれないが、少しだけ勇気を持って、私との治療の可能性に賭けてみたいという方、ご一報ください。

熊木徹夫(あいち熊木クリニック

<愛知県日進市(名古屋市東隣)。心療内科・精神科・漢方外来>

:TEL:0561-75-5707: https://www.dr-kumaki.net/ )

<※参考>

治療における「先駆者優先の原則」

「糖衣錠を1/4に割るなんて…」

一剤一剤に、人生がかかる責任

おくすり手帳は、あなたの命綱

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