治療における「先駆者優先の原則」

2019年10月19日

もし患者さんが複数の病院・クリニックに通院する必要(例えば、内科・外科・心療内科…)が生じたとき、注意していただきたいことがある。それは以下のようなことである。

A医院(たとえば内科)とB医院(たとえば精神科)があったとしよう。
ある患者Pさんは、A医院で先に治療を開始しているとする。その場合、もしB医院もPさんの治療をしなければならないとき、先に治療を開始しPさんに安定をもたらしているA医院の治療を阻害しないように慮るのは、当然のことである。

もしB医院が、先の治療に配慮せず自らの治療を開始し、その状況に無理やりA医院が合わせることになったら、どうだろう。せっかく作り上げたA医院治療のホメオスタシス(恒常性)が壊され、結果、双方の治療は迷走することになるだろう。

このように治療には「先駆者優先の原則」がある。
そのため、先に当院通院中の患者さんに是非お願いしたいのは、次に併行してかかるクリニックのドクターに、必ず当院の処方内容が書かれた「お薬手帳」をお見せし、「あいち熊木クリニックで出されている処方薬を続けていけるように、処方してください」とお伝えいただきたいのである。


*最近気になることがある。
光脱毛・エステなどを行う団体(もちろん医療施設ではない)のもとにいく患者さんが多くなってきた。

患者さんが光脱毛の施術を受けたいので、これを書いてほしい、と言ってくることがある。それは、「この光脱毛・エステが安全であることを証明し、その行為を承認する」よう要求するものである。患者さんの気持ちを汲んであげたい気持ちはやまやまなのだが、これについては決してサインはしない。

理由は2つある。
まず、上記の「先駆者優先の原則」に従っていないためである。
先程は、医療機関の併診を例に挙げたが、これがたとえ光脱毛・エステであっても同じことである。

当院の場合でいうなら、後から関わろうとする団体は、先の精神科治療を理解し、それを阻害することなく施術を行うべきで、それを行う自信・責任がもてないなら、そもそもこの状況で、そのような施術を行う資格はない。

さらにもう一つの理由は、自らの行う(あえていうが「不完全な」)施術への“太鼓判”を見も知らぬ医師に押させ、責任を完全に回避したかたちで、利得だけ得ようとしているからである。

私たち医師の例でいうなら、先に治療を行なっている内科医に対し、後から治療を開始する精神科医が「この状況での精神科治療の妥当性・安全性について証明してくれ」と内科医に依頼するのと同じであり、これがあきれた言動であることは理解できるだろう。
このような書類を用意しているその一件においてだけでも、そのような団体に関わるべきでない十分な理由となろう。

<※参考>

「糖衣錠を1/4に割るなんて…」

一剤一剤に、人生がかかる責任


患者さんと共に、“勇気を持って翔ぶ”ということ

おくすり手帳は、あなたの命綱

×