アロパノール(全薬工業)についての所感

2019年10月19日

最近、しばしばTV-CMで見かけるアロパノールという商品について、コメントしたい。
宣伝文句は「緊張・イライラ・不安など、ストレス社会に疲れた心へのドリンク剤」である。
向精神薬はすべて、市販できないことになっているはずなのに、果たしてどのような薬物か、と疑問に思っていた。

調べてみると、何のことはない、漢方の「抑肝散」である。
近頃、漢方に新たなカタカナ名称をつけ、意匠を凝らして売る手法が増えている。
どうやら、こうすると売れるらしい。

私は、精神科医で漢方医であるので、抑肝散はかなりよく用いる薬物である。
最近、漢方の各種研究でも注目されていて、いろいろエビデンスを増やしている薬物である。

それに、意外にも「疲れた心へのドリンク剤」などというフレーズで売られた薬物は、かつてなかったようにも思う。

ストレス社会の企業戦士、心療内科などに行く暇もなく、また行くこと自体に抵抗があるだろうから、
このような人々の”こころ”をぎゅっと握る商品になってくるのだろう。
なかなかにうまい手法である。

ただ漢方全般にいえることだが、漢方処方で最も難しいのは、その患者さんの体質を見抜くことで、
残念ながら、患者さんがそれを自己判断するのはほとんど不可能である。
そのためやはり、面倒でも漢方クリニックへの受診を奨めたい。

同じような症状でも、漢方の選択肢は実にたくさんある。
これまでも漢方が注目されていながら、なかなか敷居が高くなっているのは、患者さんと漢方のマッチングにかなり経験を要するためだ。
「漢方は安全。副作用はない」との”都市伝説”を信じている人はいまだにいるが、
これはあくまでマッチングがうまくいってこそである。

いかなる場合にも副作用が出ないという都合のいい薬物など、存在しない。
アロパノールでも、「服用後、次の症状(※省略)があらわれた場合は副作用の可能性があるので、
直ちに服用を中止し、この添付文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談してください。」と書いてあり、
最終的に不都合が生じれば、やはり医者・薬剤師だよりである。

また肝心な値段だが、以下のようになっている。

(※参考:アマゾン(2016.3.12.現在))
goo.gl/Vh3WJb
・アロパノール顆粒 24包(8日分)¥ 3,034 ・・・一日分換算:379円
・アロパノール内服液 3本(1日分)¥ 1,380・・・一日分換算:1380円

(※参考:ツムラQLIFE漢方)
www.qlife-kampo.jp/clinic-meds/detail_9191
・ツムラ抑肝散エキス顆粒 3包(1日分)¥ 86・・・一日分換算:86円(健康保険3割負担なら、26円(ただし、診察料・調剤料は含まない))

漢方は出会いが大事である。
「漢方は苦い。まずい」と決めてかかっている人は、最初の出会いが不幸だったのである。
漢方の場合、意外なことに「良薬、口に旨し(あまし、甘し)」なのだ。
体に合うものほど、おいしく飲める。

アロパノールを自分で服用し、楽になる人がいるなら、それはそれで良いことだ。
しかし、もし仮に「苦い。まずい」となって、漢方全般に不信感を持たれるようになっては、
患者・医師・薬剤師、いずれにとっても不幸なことだ。
ぜひ、そうならないように願いたい。

熊木徹夫
(あいち熊木クリニック
<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)。心療内科・精神科・漢方外来>
:TEL: 0561-75-5707: www.dr-kumaki.net/ )

<※参考>

「痛み・漢方専門外来」(および、あいち熊木クリニックでの漢方薬治療の考え方)について

初めて漢方薬を服用される方へ(あいち熊木クリニックでのお伝え)

「”仮面”を被ったうつ病 ~痛みにさまよえる患者さんたち~」

舌痛症、官能的評価のコメント

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