<新刊書『ギャンブル依存症サバイバル』のご紹介>
こんにちは、熊木です。
このたび(2015.8.24.)、
『ギャンブル依存症サバイバル
―パチンコ・スロット・競馬・競輪におぼれる人を救済するため、
患者・家族・医療者に贈る指南書』
を、中外医学社より、上梓することになりました。
私としては、6年ぶりの新刊書です。
以下に、本書の<まえがき>を掲載します。
これを読み、興味を持たれた方、
実際に今、ご本人やご家族がギャンブルの問題で苦しんでおられる方、
そのような方々には必ず役立つものになっていると自負しています。
一度手に取っていただければ、とても嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
→→→ goo.gl/WB72TA
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
<まえがき ~「ギャンブルさえしなければ、いい人」~>
あいち熊木クリニックを開設し間もない頃、一組の夫婦が訪ねてきました。
お二人の顔は強ばっており、互いをぎこちなく意識し合っている様子が、
今も脳裏に浮かびます。
「こんなことで、精神科クリニックへ来るのもどうか、と思いましたが・・」
と前置いて、ご主人が意を決したように訥々と語り出しました。
趣味だったパチンコにいつしかのめり込むようになり、
就寝後もじゃらじゃら玉が落ちてくるような”幻覚”にとらわれ、
眠れなくなったということでした。
そこに奥さんが付け加えられたのは、次のようなことでした。
「私から見た夫の一番の問題は借金で、結婚以来、累計数千万に膨れあがっている」
「夫の借金が発覚するたびに、私が何とか揉み消そうと躍起になり、
貯金を崩し返済にあてがったが、そんなものは焼け石に水だった。
最終的には、子供の学資保険まで解約したので、子供が大学進学を断念した」
「夫はもともと無口ではあるけれども誠実な人だった。
しかし、パチンコがらみでお為ごかしの嘘を頻繁につくようになり、
今では夫の話すことのすべてが信用できない」
「二人の子供はこの状況にあきれかえっており、
「お父さんなんか居なくなればいいのに」と言うようになった。
年に一度必ず行ってきた家族旅行も、いつしか無くなってしまった」
・・・
冷静ではあるものの、奥さんの口からは、
ご主人への不満がとめどなく溢れ、際限ないかのようでした。
このような話を聞き続けながら、私が考えていたのはただ一つのことでした。
「ではなぜ、この二人は離婚しないのだろう」
そして、はたと思い至りました。
奥さんに一言こう尋ねました。
「ご主人はきっと、”ギャンブルさえしなければ、いい人”なんですよね」
途端、奥さんの顔が紅潮し、眼からぼわっと涙が溢れ出しました。
後から後から涙は溢れ、もう止まらない。
ご主人は、隣でがっくりうな垂れていました。
私はこの一瞬に、この夫婦の積年の恩讐を超えた深い結びつきを見た思いがして、
粛然としました。
そして、そこにこそ治療の可能性が見出せる、という信念が湧き起こりました。
これが、私が”ギャンブル依存症”というものに遭遇し、
それとの関わりを決意した瞬間です。
結局、この初回面接で、ご主人は「治療の後、必ず立ち直ってみせます」と、
小さいけれどハッキリした声で言い切ってくれました。
私はご主人に次のように話して、この面接を締めました。
「行き過ぎた日々はもう戻らない。
でもここに、かけがえない家族の絆という”最後の財産”が残されている。
これまで奥さんが寄せ続けてくれた信頼に対し、
今度はあなたが一生かけてお返しする番です。
あなたが死ぬ時に、子供たちから
”親父はバカなこといっぱいしたけど、いいところあったよな”
と言ってもらえるような、そんな最期を目標として、
これからの人生を生きてみませんか」
私たちが握手を交わしたその上から、
ポタリポタリとご主人の涙が滴りました・・・。
それから7年半の月日が流れました。
件のご夫婦は、今も2ヶ月に一度、クリニックを訪れてくれています。
いろいろ揺れ動きはあったようですが、
あの初回面接から一度もパチンコには行っていない、
とご主人は胸を張ります。
ご夫婦とも、いつも満面の笑みをたたえて、診察室にやってきます。
最早通院する必要はないレベルに達して何年も経っていますが、
どうやら「初診忘るべからず」ということのようです。
私にもこの”儀式”の重要性が分かる気がします。
そして確信を持って言えること、
それは「ご主人はもう、一生パチンコに手を染めないだろう」。
このご夫婦を皮切りに、これまでに全国から数百のご夫婦が、
あいち熊木クリニックとギャンブル依存症研究所に、
ギャンブル依存症治療のため訪れました。
そこでは、いろいろな人生模様が描かれました。
またそのほとんどが、人生の崖っぷちです。
それゆえに、治療はなかなか一筋縄ではいきません。
でも治療が隘路にはまり込んでしまったとき、
私がいつも立ち返るのはこの最初のご夫婦との初回面接の場、
そして「ギャンブルさえしなければ、いい人」という、
か細いけれどしかし勁い夫婦の絆です。
ギャンブル依存症の治療者はつまるところ、
この”絆の再確認の立ち会い者”でしかないのかもしれません。
しかし、一見枯れてしまったようなご夫婦の情愛のなかから、
この絆を探り当て可視化することは、
実は当事者同士にはなかなかできぬことなのです。
そこに意義を感じて、クライアント夫婦は足を運んでくれているのだろうし、
私自身そのことを自認して、
今日もまた、ギャンブル依存症臨床に立ち会っています。
ギャンブル依存症治療は、正直生易しいものではありません。
人生の起死回生、まさにサバイバルです。
本書は、今ギャンブル依存症で苦しんでおられるあなた、
そして何よりもそのご家族に読んで欲しいです。
そして、今まさにギャンブルに吸い込まれそうになっているあなたにも。
また、推計536万人(2014.厚生労働省発表)
といわれる膨大な数のギャンブル依存症者の治療・援助に当たるのに、
私一人がいくら蟷螂の斧を振り上げたところで、どうにもならない。
先駆的役割を果たしておられる先生も幾人かいらっしゃいますが、
まだまだギャンブル依存症の治療者・援助者の絶対数が
不足しているのが実情です。
少しでも多くの精神科医・臨床心理士・精神保健福祉士などの臨床家が、
私たちの考えに共鳴し、
ギャンブル依存症治療の土俵に上がっていただくことが重要であり、
本書がその一助になることを祈念しています。
熊木徹夫(あいち熊木クリニック)
→→→ goo.gl/WB72TA
<※参考>
精神科医。
精神保健指定医・精神科専門医・日本精神神経学会指導医・東洋医学会(漢方)専門医
あいち熊木クリニック 院長
心療内科・精神科・漢方外来|愛知県日進市(名古屋市名東区隣)
TEL: 0561-75-5707
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません