ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン)の官能的評価(5)

2019年10月18日

(抗パニック)<パニック障害でなやんでいて、ジェイゾロフトを飲み始めてからは少しずつですが、良くなってきて、今は12.5mgでもパニックになる事はないです>
(5104 ウチヤマ ナオミさん)

(発作激減)
<・飲み始めは吐き気がひどくて、一日中横になっているほどでした。
3週間目くらいから徐々に吐き気がなくなりました。
・パニック障害の苦しい発作が激減して、身体が楽になりました。
だんだん体力が回復してきました。
・もともと気力はあったのに、ただ身体がついていかないだけだったので、気力に関してはあまり変化はなかったです。
・75mgでも眠気はあまり感じません。
・今まで食べられなかったのが、食べられるようになりました。
(胃薬とのかかわりがあると思います)>
(3128 テニス大好きママさん)

ジェイゾロフトはうつ病・うつ状態以外にも、パニック障害について健康保険適応となっています。
とはいえ、パニック障害のどのような側面にも効果があるわけではありません。
いざパニック発作が起こってきたときに、ジェイゾロフトを頓服として用いても、ほとんど効果は見られません。
一度発作を経験した人は、また発作が起こるかもしれぬと怯え、発作の予兆に対しとても過敏になります。
そしてその予兆の覚知(これを「予期不安」といいます)が、皮肉なことに発作を誘発するトリガーとなることが多い。
これが繰り返されると、まるで”無間地獄”です。
ジェイゾロフトには、この予期不安をほどく効果があるとされます。
その効果発現のためには、毎日一定量のジェイゾロフトを服用する必要があります。
上記のように非常にうまくいく場合ばかりではありませんが、
ぴたりとはまると、発作時に頓用として服用する抗不安薬(ソラナックスやワイパックスなど)がほとんど必要無くなります。
抗不安薬に伴う依存性の問題を考えるならば、このような展開は理想的といえます。

また、食欲の問題について触れておきます。
テニス大好きママさんは、
<飲み始めは吐き気がひどくて、一日中横になっているほどでした。
3週間目くらいから徐々に吐き気がなくなりました>
といっていますが、ジェイゾロフトによらず、吐き気はSSRIの処方初期に多く見られる副作用です。
これに耐えられぬなら、胃薬を併用することが多く、
それでもなお耐えられぬなら、処方自体の合理性を疑い、抜去することになります。
また、吐き気があるからという理由とは別に、
ジェイゾロフトを服用すると食欲抑制が発現されることが少なくありません。
そのため過食症の治療でも、過食衝動の抑止を狙って、処方されます。
テニス大好きママさんの場合、その逆で
<今まで食べられなかったのが、食べられるようになりました>ということですが、
ジェイゾロフトの一般的な効果から考えると不思議な感じがします。
ただ、彼女が言われるように、胃薬が食欲増進に働いた可能性もありうること、
また、摂食自体に元々かなり抵抗を示していた(すなわち拒食の)方だとする場合、
摂食をすることについてのこだわりが緩むことにより、
自然な食欲を招来した可能性も考えられます。

(つづく)

熊木徹夫
(あいち熊木クリニック
<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)。心療内科・精神科・漢方外来>
:TEL: 0561-75-5707: www.dr-kumaki.net/ )

本文は、
『精神科のくすりを語ろう・その2 ~患者による官能的評価の新たな展開~』熊木徹夫(日本評論社) )
から抜粋した記事です。

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