特報(7) 『精神科のくすりを語ろう・その2』おたよりメールのご紹介。~官能的評価は<生きのいい魚>~

2019年10月19日

こんにちは、熊木です。

このたび(2015.9.10.)、
『精神科のくすりを語ろう・その2 ―患者による官能的評価の新たな展開』
を、日本評論社より、上梓することになりました。
→→→ ow.ly/S7M7B

このたび、おたよりメールをいただきましたので、紹介しますね。

<『精神科のくすりを語ろう・その2』早速買って拝読しましたが、
その1には載っていなかった新薬について、
充分に載っていなかった点は期待外れでした。
具体的には、ラミクタールの項がないので、「えっ、なんで?」と思いました。
最新薬のロゼレムやベルソムラがないのは当然でしょう。
しかし、新薬のレクサプロと、
気分障害にとっては新薬のラミクタールは重要な薬なのに、
何故レクサプロの項は有って
ラミクタールの項は無いのか不思議に思います。
ラミクタールは気分障害に保険適用されてから確か3年ぐらい経ち、
評判も定着していると思うのですが。
あると思い込んで購入し、無かったので、かなりの肩透かしでした。(ろろみ)>

どうも、ありがとうございます!
せっかく買っていただいたのに、ご期待に沿えず、申し訳ありません。
ただ、このご感想にお答えすることはとても重要だと思えましたので、
ここで少し丁寧に、本書の成り立ちからご説明します。

本書は、精神科薬物の本であり、各章が薬物の名前になっています。
ゆえに、薬物の選択は非常に重要です。
本書『精神科のくすりを語ろう・その2 ―患者による官能的評価の新たな展開』
にせよ、『その1』にせよ、構想段階であらかじめ、掲載薬物をピックアップしていました。
ただ本書には、精神科薬物を取り扱う類書にはない、特別な制約があるのです。
それは、「いい官能的評価が得られないか、
そもそも官能的評価自体が収集できない場合、
その薬物について記事を書くことはできない」
ということです。

例えていうなら、本書に掲載している官能的評価は<生きのいい魚>です。
まずこの<生きのいい魚>が上がってこないと、その魚を”調理”(編集)することはできません。
いくらある薬物を取り上げたくても、官能的評価においては、
取り上げることができないという特殊事情が発生する場合があるのです。

このラミクタールの場合もそうでした。
今回は、官能的評価の約8割が、私の自験例から成っています。
私自身、ラミクタールの可能性に興味を示し、早速臨床の場で処方してみました。
しかしあいにく、4人連続で薬疹が発生してしまったのです。
これだけで極めて危険な薬物と言い切るのは時期尚早であるのでそうはいいませんが、
「かなりの危険性を持った薬物」だと警戒心を抱いたのは事実です。
(その後、薬疹の多発は問題になり、厚労省から特別なお達しが出ています)

その後、よほどのことがない限り
(他のいかなる手段を講じても、良くなる見込みがない場合にしか)
ラミクタールを処方することがないまま、時間が経過しました。

私は、一臨床家であり、眼前の患者さんをなるべく危険に晒すことなく、
最善の状態に導くことが、職業使命です。
仮に、官能的評価の本を編むため、あるいは単なる知的興味のため、
患者さんの体で、不確定な”実験”をするなら、それは本末転倒というものです。

そのような経緯から、今回は、
ラミクタールで章立てができるほど、
質量ともに十分な官能的評価を収集することができませんでした。

ただしこれは、ラミクタールが悪い薬物であるとか、
可能性のない薬物だという意味ではありません。
現状で、本書に”縁のなかった薬物”だったということです。

『その3』でラミクタールが取り扱えるか否か、それについても何とも言えません。
それは他の薬物でも同様です。

ただし、今回のろろみさんの落胆のような事態を極力防ぐために、
アマゾンサイトにも、本書の帯にも、11の掲載薬物をもれなく載せています。
念のため、ここでもそれをお示ししておきます。
ジェイゾロフト
サインバルタカプセル
リフレックス、レメロン
レクサプロ
セパゾン
セロクエル
ジプレキサ
エビリファイ
コントミン、ウインタミン
リリカカプセル
リボトリール、ランドセン

よって、本書『その2』および前書『その1』は、調べてお使いいただきやすいよう、
索引もお付けしていますが、
主要薬物を網羅的に掲載したものではなく、
アンチョコのように使うのは不向きかと思います。
ただし、ご自身が処方をしている・されている薬物だけでなく、
他薬物についても、読み物のようにご覧いただくと、
全体を通して配したトピックスから、
かなり深く濃い情報を得ていただけるだろうこと、
また、「官能的評価とは何か」ということが
重層的にお分かりいただけるものと自負しています。

とりあえず読んでいただきたいのは、序章です。
本屋で見られる方は、序章を読んでご納得いただいた上で、
お買いいただけると嬉しいです。

熊木徹夫(あいち熊木クリニック)

『精神科のくすりを語ろう・その2』
(カスタマーレビューのご記載も歓迎です!)
→→→ ow.ly/S7M7B

<※参考>

良き「官能的評価」がもたらされるための条件(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

そもそも身体感覚の鈍い人とは(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

”主客”の共鳴から生まれる「官能的評価」(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

”服み心地”と「官能的評価」の違い(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

『精神科薬物の官能的評価 〜精神科医と患者、主観の架け橋〜』 

「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~

実際臨床における「官能的評価」の炙りだし方