精神科主治医は何を守り、会社産業医は何を守るのか

2019年10月19日

精神科主治医(当院では私熊木)が復職についての診断書を書いた後に、会社(患者さんの勤務先)からある要請を受け、混乱を来すケースが後を断ちません。

そこであらかじめ、当院の考えをお伝えしておきます。

精神科主治医である私が、復職に至るまでに書き継いできたものは、およそ以下のようなものです。
<病名:●●、上記により、1か月の休養加療を要す>
そして、復職に際しては、次のようなものを書きます。
<病名●●、上記により今後も通院加療要するも、2013.1.7.-復職可とする>

これを受け、会社側(職場の上司、および会社産業医)は、復職の妥当性を勘案し、「現時点での復職はまだ時期尚早で、1ヶ月間のリハビリテーションが必要」などと判断することは、少なくありません。
そのこと自体は、何ら問題はありません。
が、そこで会社産業医が、当院に対し、次のように告げてくることがよくあるのです。
「会社側で取り決めた復職日は、貴院(当院のこと)が決めた復職可能日と約1ヶ月間のズレがでてくる。これを埋め合わせるために、“休養加療要す” という診断書を急遽延長し、書き継いでもらいたい」

これについては、当院では「できません。というより、そもそもその対応は妥当なものではない」とお伝えしています。
理由は以下の通りです。

精神科主治医は平たくいえば、「患者さんの守り神」のようなもので、患者さんの体調コントロールを第一義に考えています。
すなわち復職可能であるとの判断も、「現在の患者さんの体調にとって、復職は差し支えない」との診立てからくるものです。
これに対し、会社産業医は、患者さんサイドのことを云々することはあっても、基本的には会社の味方で、会社を守る立場です。
この場合、患者さんの復職が可能とする判断は、「会社の利益を損ねない働きができる状態になった」との診立てからくるものです。
よって、双方の復職可能と判断する時期にタイムラグがあるのは、何ら問題がないことであり、むしろ立場の違いからいっても自然なことといえます。

当院の診断書についても、よく見ていただければ分かる通り、「■■~復職可とする」と言っており、決して「復職すべき」だなどと言っていません。
復職の最終段階の妥当な判断は、会社産業医にしか為しえないことはよく承知の上です。

以上の理由により、会社産業医ないしは会社の人事役員、あるいは患者さんの上司からの、こういった追加診断書記載の要請にはお応えしておりません。
これは、当方がつまらぬ意地を張っているといったものではなく、キチンと筋を通しているということです。
「我々の主張に応じ、貴院(すなわち当院)が折れ、診断書を一枚書けばいいだけの話じゃないか」という方がいるならば、「不要な追加診断書の発行により、患者さんにさらなる負担をかけることには賛同できません」とお答えしています。

患者さんおよび、会社関係の方々、どうぞご理解の程、お願いいたします。

熊木徹夫(あいち熊木クリニック<愛知県日進市。心療内科・精神科・漢方外来>:TEL:0561-75-5707: https://www.dr-kumaki.net/ )

<※参考>

2015.12.「労働安全衛生法」法令改正 ~私たち、あいち熊木クリニック「ビジネスマン(ストレスチェック)外来」にできること~

新型うつ病に伴う、独特の苦しさ・・(会社経営者・管理者の方への提言)

生命保険・医療保険は、”自身の未来の不幸に対する賭け”

2013.道路交通法改正・自動車運転死傷行為処罰法成立に伴って、 ドライバー・家族に是非理解しておいていただきたいこと (重要!)