ギプスをつけて100メートル走
「ギプスをつけて100メートル走」
私が、あいち熊木クリニックで薬物処方を行なっている患者さんのなかに、次のような方が少なくない。
それは、ようやく病状が落ち着いたところで、すぐさま仕事に復帰し、さらには全力投球しようとする方である。
服薬して得た“かりそめの安定”であることを、忘れてしまっているのである。
そのような方には、次のような喩えをお話する。
「あなたの病気が、“こころの骨折”であるとするなら、精神科薬物はギプスのようなものである。
今の安定は、精神科薬物というギプスがようやく折れた骨を固定しえたということ。
もしギプスをつけたままの足で100メートル走に出たら、みんなおかしいと思うだろう。
しかし、今の状態で仕事に打ち込もうとすることは、それと同じである。
動いてはいけない、とは言わないが、慎重に動くのでなくては、ギプスがはずれ、いよいよ骨がつかなくなってしまう。
あなたの体が、おおかたの薬を必要としなくなるまで、無理な動きをするのは待って」
こういうと、大抵わかっていただける。
精神科治療の分かりにくさを、なるべく具体的にイメージしやすい比喩で表す努力をしていきたいと思う。
熊木徹夫
(あいち熊木クリニック<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)・心療内科・精神科・漢方外来>
TEL: 0561-75-5707)
<※参考>
書評『心はどこまで脳なのだろうか』(兼本浩祐著:医学書院)(雑誌「こころの科学」より転載)
キラキラネームは「オンリーワンの呪縛」 ~名前が孕む”言霊”について~