~「受験道」、そして「方便としての受験」~

私は大学浪人時代、「受験道」を信じていた。

「受験道」とは、こういうことだ。

いかなる教科においても精通している必要があり、何か欠落があってはならない。
試験を課する大学が、どのような切り口で出題してきても、たじろぐことなく、迎え撃たねばならない。
大学の出題傾向やクセを把握し、ヤマを張るなどというような”卑怯”なマネをしてはいけない。

すなわち、オールマイティな受験生であろうと考えていた。
受験というものを、特別な精神修養の場に変えようとしていた。

浪人時代、非常にストイックな生活を自分に強いていた。

起きている時間は勉強に当て、スキマの時間に室内用のボートマシンを漕いでいた。
大学に入った暁には、誰よりも多く読書をし、一番厳しい体育会クラブに入り鍛錬しよう、そのようなことを本気で考えていた。

予備校の教師が「君たち、今はつらいかもしれないが、大学に入ったら死ぬほど遊べるから頑張れ」と激励する姿を見て、軽蔑していた。

しかし、共通一次試験(現在のセンター試験)で大失敗をし、前年より60点もマイナスになり、天を仰いだ。

神も仏もないものか、と思った。

がしばらくして、これは自分の修養が足りないせいだ、と思いかえし、とりあえず今受けられる大学をパスしたあと、その合格を返上し、来年捲土重来を期そう、と真剣に考えていた。

 そんなこんなで、一浪後、名古屋市立大学に納まったのだが、大学時代にあれこれ経験し考えるうちに、真逆の方向を目指すようになった。

自分の知りたいことを突き詰めるため、読書に勤しみ、大学一厳しい野球部に所属していたのだが、試験合格というものを究極の目標にするのは間違いだと考えるようになった。

医師国家試験はその考えに基づき、自分が特別に志向するジャンルの知識以外の習得は無理せず最小限に抑え、合格した。

試験など儀式にすぎないのだから、そこで燃え尽きたりするのは愚の骨頂、試験の後の研鑽が何より大事という思いは今もって変わらない。

私の担当する患者さんのなかに、受験生が大勢いるが、燃え尽きかけている人が少なくない。
そのような彼らには、次のような試験対策を指南する。

試験勉強はエンドレスなものを想定してはいけない。

それでは泥沼にはまる。
かならずゴールを具体的に設定し、そこに行くまでに必要な勉強の総量を”逆算”しなくてはならない。

 そのため、まずやるべきなのは”赤本(各大学の入試過去問)”。これを解法ごと覚えこむくらい反芻する。
ただしこれは過去3年分くらいでよい。

どこの大学も入試作成の教官は持ち回りで、数年単位で変遷していく。
だから、ここ3年分の類似問題が出る可能性が極めて高い。

 去年出した問題と違う傾向の問題をあえて出そうとすることはないのか?

それはありえない。出題者心理を考えれば分かる。

出題者は何かの専門家である場合が多く、自分の専門外の良問を自信を持って出すことはかなり難しい。
問題というのは出しっぱなしでは済まない。

出題したあと、同業の大学教官や予備校教師に検証されるのであるから、恥ずかしい問題は出せない。
よって、自制が働き、自ずと専門の範囲の出題に落ち着くはず。

近年、数学の行列ばかり出ている大学なら、さらに同傾向の問題が出ると考えるべきで、そのジャンルが苦手であるなら、赤本攻略後、「行列のいろは」のような問題集を徹底的に修めるのがよい。

また、自分の志望大学の模擬試験が実施されるなら、かならず受けておくべきだ。(私は大学受験期、志望大学向け模擬試験は”卑怯”な行為だと考えたので、受けていなかった)

受けること以上に重要なのは、その問題を解法ごとマスターすること。
この大学の出題傾向を研究し尽くしたプロ(予備校教師)が作った問題なのだから、エキスが凝縮しているといえる。

それから、予備校が参加を強力に促す夏期講習・冬期講習などには参加しない方がよい。

時間があるなら、学生がめいめい自らの弱点補強をとり行うべきで、目的の大学合格と直結しないオーソドックスな学力強化などに漫然と与してはいけない。

等等・・

 もちろん、このような”方便としての受験”については、押し付けるべきものではない。

が、このような方法を選択肢として持ち合わせていなかった自身への悔恨の情から、受験勉強の可能性のひとつとして、お伝え出来れば、と考える次第である。

(※これまで実際に、さまざまな受験生にお話したことを、簡単にまとめたものです。もっとも、これは精神科医の仕事ではない、という意見もあるかもしれませんが)

熊木徹夫
あいち熊木クリニック<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)。心療内科・精神科・漢方外来>
TEL: 0561-75-5707)

<※参考>

書評『心はどこまで脳なのだろうか』(兼本浩祐著:医学書院)(雑誌「こころの科学」より転載)

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