服薬して楽に過ごしていくことは<甘え>だ
ここ最近、次のようなことを言う患者さんに複数遭遇しました。
いずれも、患者さんご自身と治療者である私がともに苦労の末、やっと患者さんが楽になれる薬を見いだし得た果てのことです。
「今は薬のおかげでとても楽になり安定しているが、このまま楽をして過ごしていくことは<甘え>だと思う」
このような言葉を聞くたびに、私は深いため息をつきます。
「ここにも自分を許せぬ人がいる」と。
私は以前、自著『精神科医になる ~患者を<わかる>ということ~』(中公新書)のなかで、心気には「なおりたがり病」と「なおってたまるか病」があると指摘しました。基本的に治る方向に大きなモチベーション(動機)を持てる人は「なおりたがり病」、何としても治るものかと意識的・無意識的に抵抗を示す人が「なおってたまるか病」であるとし、その見極めが重要とお話ししました。
その執筆当時、あまり意識していませんでしたが、「なおってたまるか病」には大きく2タイプあるように思います。
ひとつは、治療に抗おうという姿勢が一貫していて、医師などに籠絡されてなるものかと頑ななタイプ。
そしてもうひとつは、そもそも患者さん自身が自罰的・受苦的で、自分が楽をするという状況がどうにも居心地が悪くて、あるいはちょっとばかり良いことがあってもそのまま終わるはずはなく必ず自分には何らかの”罰”が下るのだと確信してやまないタイプ。
ここで例に挙げた患者さんは、もちろん後者です。
こういった患者さんの”必然的悪循環”を生む思考回路をほどくのは、本当に大変です。
精神科薬物療法においては、ただ単に患者さんの病態とそれにふさわしい薬物とのマッチングができれば事足れりとはなかなかならないのは、薬物を適正に受容していただくための”精神療法的関わり”が欠かせないからです。
<薬物の受容=自己の受容>という構図を患者さんご自身に理解していただき、その雪解けをじっくり待つことが必要なのです。
熊木徹夫
(あいち熊木クリニック<愛知県日進市(名古屋市東隣)。心療内科・精神科・漢方外来>
TEL:0561-75-5707)
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服薬して楽に過ごすのは甘え?|うんぷてんぷ : 精神科医・熊木徹夫に訊け!
<※参考>
精神科薬物治療を成功に導くために、精神科医・患者双方が知っておくと良いだろうこと
妊婦さんや授乳期のお母さんの、理想的な精神科薬物との関わり方