ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン)の官能的評価(2)

2019年10月18日

(双極2型障害の底上げ)<私には非常に良く合っています。
双極2型障害ですが、0.5錠(12.5mg)でも底上げ感があります。
副作用は寝言で、副効果は食べても太りません>
(2784 きょんちゃんさん)

(意欲上げすぎない)<気持ちはだいぶ落ち着いてきたと思います。
意欲を高める効果としてはあまり実感がありません。
味わいについてはさほど気になった事はありません>
(3195 ぶぶさん)

(テンション上がらず良い)<多い時で1日にジェイゾロフトを4錠(100mg)、服用していました。
1錠(25mg)ではほとんど効果はなく、徐々に増やしていきました。
この薬を飲んで、気分が良くなったり、テンションが上がる事はなかったです。
飲みやすい薬だと思います>
(4835 チョコさん)

ジェイゾロフトは抗うつ薬の位置づけですが、マイルドな気分上昇が特徴的です。
ゆえに、双極2型障害(軽躁状態とうつ状態を行きつ戻りつすることが特徴的な双極性障害)にまず投与するべき基本薬は感情調整薬ではあるものの、双極性の波が消退した後に軽度の抑うつが残り、多少持ち上げる必要が生じた時、このジェイゾロフトの微量追加投与が非常に効果的です。
同じSSRIでもその点が、パキシルとの大きな違いです。
パキシルは切れ味がとても鋭く、抗うつ効果も分かりやすいですが、双極2型障害で同様に追加投与した場合、躁転する危険が極めて高い。
ゆえに用いるべきではない。
一時、若者にパキシルを処方したケースで自傷・他害行為が誘発され、最悪のケースでは自殺を引き起こしたと大きく報道され、問題となったことがあります。
これは恐らく、双極2型障害のうつ状態を診た医師が、「うつ病」と勘違いしたケースであると考えられます。
(その後、パキシルのみならずSSRI全般を「躁うつ病」で処方する場合、躁転から自傷・他害の危険があるとされ、添付文書に「慎重投与」と表記されるようになりました)
これは実臨床でかなり多くある印象です。
(私自身、依頼を受け行うセカンドオピニオンで、そう判断せざるをえないケースが少なくないです)
このような誤診が頻発するのには理由があります。
それは、DSMなど操作的診断基準の短絡的使用が常態化しているためです。
DSMを用いた横断的診断(ある一時点(例えば初診)で、どのような症状が表現されているか、それだけをDSMで挙げられた”症候群”と照らし合わせ診断すること)は簡便な方法であり、精神科の専門知識をそれほど有しなくても容易に診断できます。
が、そこに落とし穴があります。
どのような因果でこういった状態(症候群)が招来されたのか、考える習慣を持たなくなり(すなわち精神病理学的思考の必要を感じなくなり)、表層的な症候の現れのみに幻惑され、病いの本質に肉薄できなくなります。
また、縦断的に(時間軸に沿って)思考することができなくなり、病歴そのものが診断において顧慮されなくなるため、その聴取もおざなりになる。
その結果、双極性障害のような周期的に病態が変容する疾患を想定するのがとても困難になります。

また先に、パキシルのみならずSSRI全般が十把一絡げで「躁うつ病」に対し危険と見なされるようになったとお話しましたが、SSRIのすべてが、パキシルと同レベルに危険といえるのか。
パキシル以外のSSRIに危険性が一切ないとは、私も考えていません。
しかし、SSRIという括り出しで包括的に対処することで、見えなくなってしまったものもあるのではないか。
そもそもSSRIというのは、製薬メーカーが薬理学的仮説(事実ではなく仮説ということが重要)からかなり無理矢理にカテゴライズしたものも含まれており、販売戦略において有利に機能する”トレードマーク”だったようです。
その証拠に、SSRIはその各々の化学構造式が非常に異なっています。
それゆえ当然のことながら、薬効においても、互いに相違点が数多あるのに比し、互いの共通点を挙げることはかなり難しいのです。
実際に処方してみると、良くも悪くもパキシルのもつ切れ味の鋭さは、他のSSRIでは見られないことが分かります。
とりわけ処方で注意を要するパキシルをSSRIの代表と見立てることにより、他のSSRIにまで大きな処方制約を課してしまい、結果各SSRIのポテンシャルの発揮を難しくしてしまったことは非常に残念なことです。

一点、付け加えておくべきことがあります。
先程から、”双極2型障害についての誤診”と書いてきましたが、実際は、眼前の患者さんに今認められるうつ状態から、うつ病と双極2型障害の鑑別の必要を自覚し、横断的アプローチのみならず縦断的アプローチを企てたとしても、精神科医が確定診断に迷うケースは案外多いといえます。
それゆえ、”誤診”というには酷な状況も少なくない。
ただ精神科医が「これはどう見てもうつ病に見えるが、ひょっとすると双極2型障害かもしれない」という慎重な姿勢を絶えず持ち続けることが重要であり、もし鑑別に迷うようなら、とりあえずパキシルは使用しない、他のSSRIも相当慎重に用いるということが重要になってきます。

(つづく)

熊木徹夫
(あいち熊木クリニック
<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)。心療内科・精神科・漢方外来>
:TEL: 0561-75-5707: https://www.dr-kumaki.net/ )

本文は、
『精神科のくすりを語ろう・その2 ~患者による官能的評価の新たな展開~』熊木徹夫(日本評論社) )
から抜粋した記事です。