看護師求人随想 ~あいち熊木クリニックが待望する看護師像とは~

2019年10月19日

 近頃、あいち熊木クリニック(当院は、愛知県日進市(名古屋市名東区の東隣)にあります)の

近隣クリニックのドクター数名(精神科医とは限りません)と、話す機会をもちました。

そこで、どのドクターからも、不思議なほど同じような“ぼやき”を聞かされました。

それは「ようやく雇った看護師が居着かなくて、皆3ヶ月経つと計ったように辞めてしまう」というものです。

そもそも求人をかけても、なかなか来てくれないのだそうです。

実は、当院でも心当たりがあります。

そこで、いろいろ調べてみたところ、ある“からくり”が分かりました。

それは次のようなものです。

 

そもそも看護師はどこの医療現場でも不足が常態化していて、引く手あまたなわけですが、

ここ数年でその状況に拍車がかかっています。

というのも、2年ごとに厚生労働省が改訂する看護配置基準において、

急性期病棟および救急病棟に対し、

7:1(患者7人に対し、看護師1人)や10:1といった“手厚い看護体制”を求める傾向が強くなってきており、

さらには、そうした急性期病棟および救急病棟での医療費が高くなるように

(すなわち、施設側からすれば儲かるように)仕向けられてきているのです。

その反面、療養病棟・リハビリ病棟などでは、20:1などといった“緩い看護体制”が容認されているのですが、

ゆくゆくはそういった病棟を圧縮する方向に向けられてきています。

そのため、病床をもつ病院は、生き残りをかけ、看護師集めに躍起になります。

(今の流れなら、療養病棟はやがて、療養施設に改変され、病院でなくなる運命です)

そのため、かなりの高給で看護師が雇われるようになり、

そもそも資金力のない当院のような無床のクリニックは、いつも“看護師日照り”の状況です。

 

ただ実際の問題は、これだけに留まりません。

厄介なのが、看護師雇用に“金の臭い”を嗅ぎつけた有象無象の組織が、

そのプロセスに深く噛み込もうとしているのです。

例えば、「求人 看護師」でグーグル検索を行っていただくと分かりますが、

数え切れないほどの“看護師求人サイト”が、求職中の看護師に、自社サイトへのエントリー(登録)を呼びかけています。

ところが、ほとんどの組織は、これまで医療にほとんど関わったことのない組織です。

 

それが、どれほどひどいものであるか。

あきれたのが、「あいち熊木クリニック 看護師 求人」でグーグル検索を行ったときです。

そこには、「あいち熊木クリニックで、看護師として働くなら…」という求人広告が掲載されており、

そのリンクに飛んでみたなら、当院とはまるで関係がない“看護師求人サイト”にたどり着き、

アンケートに答えているうちに、その看護師求人サイトに登録されてしまう仕組みが作られていました。

(当時、当院では看護師の求人を行っていなかったにも関わらずです!)

こうした有料広告には法外なクリック単価がかけられており、

クリニックの資金力では、太刀打ちできず、到底そこに割って入ることはできません。

すなわちインターネット上において、看護師自身と雇用主である病院・クリニックとの直接交渉の場が極めて持ちにくくなっているのです。

 

さらに、そういった看護師求人サイト経由で採用された看護師には、看護師求人サイトから“お祝い金10万円”が出されており、決まった期間(おおよそ3ヶ月間)離職しなければ、返金義務はないということがあります。

とすれば、もし雇用先に対し仁義を感じない看護師が、目先のお祝い金に目がくらみ、3ヶ月ごとの転職を続けたとしたら…。

根無し草の看護師が大量発生し(そうでないと信じたいですが)、それぞれの医療の現場は荒廃を招くでしょう。

 

それから、この“お祝い金10万円”はどこから出てきたものでしょう?

いうまでもなく、この看護師求人サイトと契約している病院・クリニックがその出所ということになります。

すなわち、言い方は悪いですが、看護師求人サイトと看護師がグルになって、病院・クリニックという雇用者から“逆搾取”しているという構図です。

こうした場合、医療現場は有形無形の劣化を招くこととなり、そのしわ寄せは当然患者さんに来ることになります。

こうなれば、ただ「病院・クリニックが損した」というだけの話で済まなくなります。

 

私は、常日頃意識しているのは次のようなことです。

病院・クリニックというのは営利団体であることは否めませんが、同時に社会のインフラであるので、“公共物”として扱われなければならない。

その役割について、当事者である医療者は絶えず意識しておく責任がある。

そして、一部の不心得な人々の”医療搾取”を許し、公共の福祉に反するようなことがあってはならない。

医療は経済原理だけで回るものであってはならない、と。

(これはTPPによって、アメリカ型資本主義医療が導入されることへの懸念にもつながります)

 

以上大切なことではありますが、前置きがいささか長くなりすぎました。

このような“看護師バブル”(看護師の価値が跳ね上がっている、という意味です)の状況で、

私たちのような一介の心療内科クリニックは、どのように看護師求人を行っていくべきか。

まず、来ていただく看護師さんに多くのものは求めない。

しかし、“これだけは…”というものについては決して妥協しない。

そういうことになります。

 

具体的には…

1)何かのエキスパート看護師である必要はない

2)多くの難しい看護手技を駆使していただく必要はない

3)必ずしも、精神科・心療内科ナースの経験がある必要はない

4)看護師勤務について、ブランクがあっても構わない

5)育児中のママさんであっても構わない

6)極端な場合、新人でも構わない

ということです。

 

その代わり、看護師さんに求めるものは…

1)患者さんの気持ちに立った注射(採血)ができるということ

もっと平たくいうなら、

2)痛くない採血ができるということ

です。

 

「何だ、それだけか」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、本当にそれがキチンとできるならそれで十分なのです。

ひいて言うなら、「柔軟な姿勢・謙虚な姿勢で、患者さんに向き合える人で、細やかな配慮ができる方、ゆっくりでも成長を志向していく方」を求めています。

「患者さんと関わることに、生き甲斐・楽しみが持てる”臨床一筋”の方」なら、なおいいでしょう。

それゆえ、注射も最初からうまいにこしたことはないが、次第に成長していける可能性が高いなら、現状の手技に多少難があっても許容できます。

 

たかが採血、と侮ってはいけません。

しかし残念ながら、精神科医で注射のうまい人はそう多くありません。(少なくとも私の周辺ではそうでした)

精神科医は、精神療法や薬物療法に大きなこだわりを示す人が多いですが、

採血などの手技に重きを置かないことが多いようです。

もともと、何とはなしに精神療法ばかりやる“カウンセリング医者”を志向して精神科医になった私ですが、

精神科所属1週間で薬物療法の可能性に瞠目させられ、薬物療法を是非うまくなりたいと強く感じました。

(その経緯については、処女作『精神科医になる~患者を<わかる>ということ~』(中公新書)に詳述しています)

また一方で、数少ない精神科医の手技である注射(採血・点滴ルート確保)の巧拙が、患者さんとの関係を規定する重要な要素となりうる、との確信に至ったのです。

 

そのため、精神科医としての駆け出しの頃、精神科新入局同期のなかでは誰よりも注射をうまくなろうと考え、

注射の機会があるたびに呼び出してもらうよう、当時の病棟看護師や精神科外来の看護主任に頼んでいたのです。

もともとそれほど器用でない私は、最初の頃、額に汗しながら、懸命に注射に取り組んでいましたが、

やはり“数は力”となって、一部の非常に難しいケースを除いて、

おおむね一発で成功させることができるようになりました。

 

その際、患者さんの表情を見ながら、体の様子を観察しながら、患者さんが少しでも痛みを感じにくくするためにどういう工夫をするのがいいのか、模索を続けていました。

また、いつも採血の際、失敗されるのが当たり前になっている患者さんのルート確保が一発で決まったとき、患者さんが安堵し私に信頼を寄せてくれる様子が実感され、「注射の成功は、時として何よりの精神療法」であることを痛感したものでした。

 

あらかじめお断りしておく必要がありますが、あいち熊木クリニックでは、次のような看護師さんのご期待に応えることはできないでしょう。

1)難しい看護の手技を覚えたいという方

2)入院が必要な重篤な患者さんを継続的に看たいという方

また、いうまでもなく、以下のような方についても満足していただくことができないでしょう。

3)どこよりも高い給料が欲しい方

4)常勤職を得たい方

 

その一方で、次のような期待をお持ちの方になら、ある程度満足できる環境をご提供できるかもしれません。

1)精神科看護を通じて、“医療(精神科のみならず全般)において普遍的なもの”(私はそのようなものがあると信じています)を獲得したい方

2)患者さんと「採血」という手技をおこなうに際して接するなかで、信頼関係を形成する訓練ができると信じる方

 

初めから3ヶ月間だけの勤務をご所望なら、お互いのためにならないので、どうぞいらっしゃらないでください。

上記を読んだ上で、あいち熊木クリニックと深く長くつきあえるという予感が強く持てる方、

当院スタッフ、そして患者さんともども、私はそんな貴女との出会いに期待を込めています。

 http://www.dr-kumaki.org/aikuma_joboffer.html

 

熊木徹夫(あいち熊木クリニック<愛知県日進市(名古屋市名東区の東隣)。心療内科・精神科・漢方外来>:TEL:0561-75-5707: https://www.dr-kumaki.net/ )

<※参考>

あいち熊木クリニックが目指す「理想の求人」とは ~当院就業希望の臨床心理士さん・看護師さん・医療事務さんに、どうしても伝えたいこと~