強迫性障害 について

2019年10月19日

体震わす電車運転士|「強迫神経症」についての臨床相談

*『もう悩まなくていい~精神科医熊木徹夫の公開悩み相談~』(幻冬舎)より

Q:私は43歳の電車運転士です。

運転士になるのは子供のころからの夢でした。無遅刻無欠勤でこれまで続けて参りました。

この仕事では、駅や鉄橋など目印になるものを、予定時刻きっかりに通過することが義務づけられており、大変なストレスと毎日隣り合わせです。

ある日、ふとした不注意から、駅のプラットホームを1m行き過ぎてしまいました。上司からは厳しく叱責され、始末書を書かされました。

それ以来、駅に到着するたびに手足が小刻みに震えるようになり、どうにも止められません。どうしたらいいでしょうか。


A1.昔、運転士を夢みていた頃のことを思いおこして

今のお仕事、楽しめていますか。

もし楽しめていないとしたら、いつのころからそうなってしまったのでしょうか。

運転士になるのは子供のころからの夢でした。

昔、運転士になるのを夢みていたころのことを思い起こしてみてください。

無遅刻無欠勤でこれまで続けて参りました。

この仕事、そもそも几帳面なあなたにとても向いた職業だとは思いますが、皮肉なことに、この仕事自体があなたのその几帳面さに拍車をかけ、毎日の生活を苦しめる結果になってしまっているようです。

駅に到着するたびに手足が小刻みに震えるようになり

手の震えは、電車をそして自分を制御しようとして、過剰に神経質になるあまり起こってきているものでしょう。

しかし自分の人生のすべてをうまく制御できる人なんていません。

予定時刻きっかりに通過することが義務づけられており

考えてみれば、毎日毎日当たり前のように運転におけるあらゆる事柄をキチンと制御し尽くしている電車運転士は、驚異的な人々だといえます。それを誇りに思っていい。そして少し“荷下ろし”を考えなくては。

例えば、仕事に遊び感覚を取り入れてみたいものです。

電車運転のシミュレーション・ゲームで「電車でGO!」というのがあります。もちろん実際の運転とは大きく違うのでしょうが、

それでも昔電車好きの少年が憧れた“夢の運転席が”とてもうまく再現されています。ついこのゲームにはまってしまう大人も多いと聞きます。この遊び心を日常の業務に取り入れてみませんか。

責任の伴わないゲームなんかと一緒にするな、と叱られるかもしれませんが、しかめっ面で運転していてもあまりいいことはないのではないでしょうか。具体的には、何かがうまくいったら、あらかじめ設定しておいたプラスポイントをカウントする。なるべくマイナスポイントは数えない。人生、プラスの足し算でいきましょう。

そんな遊び心を発揮できないほど、意気消沈しているのなら、精神科のクリニックに訪れてみるといいでしょう。

例えば、「フルボキサミン」という薬はもともと抗うつ薬なのですが、こういった“こだわり”をほどくのに絶大な効果を発揮します。(ただし、服薬をしながらの運転はやはりまずいでしょう。その点については、主治医とよく相談してください)

また最近は、認知行動療法をやる医師もいます。これは、患者さんが持つ特有の性向に患者さん自らが気づけるようにし、うまく苦しまずに暮らしてゆけるように、楽な行動パターンを習慣づけるよう訓練したりするものです。

――ちなみに病名は、「強迫(こだわり、のことです)神経症」あるいは「強迫性障害」になるかと思います。

頑張り過ぎず生きていかれるよう、期待していますよ。


補記:この回答を終えてから、JR福知山線の脱線事故がありました。この件について、私がブログで述べたものを、補記としてここに挙げておきます。

かつて「臨床公開相談」で、業務中1Mのオーバーランをして以来、緊張から手足の震えが止まらなくなった運転士の方の相談を受けた。

この相談を受ける過程で、オーバーランはかなり叱責を受けるものであること、これ以外にも運転というのは、常に完全無欠さが求められていて、たとえ小さな失敗でも、すぐ”ペナルティ”を課せられ、まったく気の休まる暇がないということなど分かり、私自身いろいろ勉強になった。

日頃何気なく乗り降りしている電車は、まさに秒刻みで運行されている。

秒というのは、人間の生理にかなう時間の単位でないことは明らかで、運転士の労働環境はまさに”殺人的”なものである。

またこの労働の過酷さは、労働評価がたえずマイナス換算でされるということだろう。

すなわち、なんでも成功してあたりまえ、しかし失敗するとそれらがいちいち積算され、叱責や減俸などにつながっていくという構造である。

この構造は、そこに属する労働者のモチベーションを著しく下げ、さらに神経症を誘発しやすいものである。

JR福知山線の脱線事故はまことにいたましい事件であった。

この事故に巻き込まれた方やそのご家族からすれば、まさに青天の霹靂であろう。

亡くなった方々のご冥福をお祈りする。

これらの方々の怒りはごもっともである。

しかしその取り巻きである我々まで、この方々と一緒になって義憤を振りかざしすぎるべきではないと思う。というのも、それが実をもたらすものとならない可能性があるからだ。

まず、運転士を厳しく非難するべきではない。

ただでさえ、限界まで神経をすりへらしている彼らを、さらに追い詰めることになるからだ。その証拠に、事故後オーバーランが減るどころか、さらに増えてきているようなのである。

先に挙げた「臨床公開相談」の運転士同様、みな神経症のようになっている可能性がある。

また、JR西日本などの会社の上層部に圧力をかける論調も、それがどのような結果をもたらすのか、今後を見届けなければならない。というのも、末端労働者である運転士に、さらに責任と負担を押し付けるだけに終わる可能性があるからだ。(後略)

<※参考>

『トンネルに入りゆく恐怖』 (「パニック障害」についての臨床相談)


それは「拒食症」ではなくて、「嘔吐恐怖症」です ~嘔吐恐怖症、その原因と治療~

「もっと“だろう運転”しなくては」  ~強迫神経症者が抱える安全運転のジレンマ~

イップスの治療 ~競技人生、崖っぷちからの生還~


「セロクエル錠(クエチアピンフマル酸塩)で、 下痢型IBS(過敏性腸症候群)の症状が消えた」 という”ももさん”に対する回答 ・・(※IBS(過敏性腸症候群)についての、精神科薬物・漢方薬の小解説)

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