パニック障害 について

2019年10月18日

パニック障害を引き起こしやすい「滅私奉公的性格」

パニック障害について、疾患の概略は、以下のところで説明しています。
『トンネルに入りゆく恐怖』 (「パニック障害」についての臨床相談)

これを踏まえていただいた上で、以下のようなお話をさせていただきたいと思います。

これは、私の20年間の精神科臨床において実感としてあるものなのですが、パニック障害になりやすい方には、独特な性格傾向が見られる方がとても多いのです。

それは「滅私奉公的性格」です。

まずは、相手ありき、自分の都合はいつでも最後、という人です。
このような方々は、初めて診察室に入ってこられるときに、屈託のない笑顔であることが多い。
一見すると、何の悩みを持っておられるのだろうという感じです。

もちろん、うちに秘められた悩みは、事後語られるのですが、それにしても、症状がしっかりカムフラージュされていることが、あまりに多い。
それも、患者さん本人が、そのような風情を醸し出していることに、無自覚なのです。
このような「滅私奉公的性格」の可能性を私が指摘して初めて、「ああ、そういえば…」と気づくのです。

パニック障害の患者さんは、このように対人配慮の人であることの裏返しとして、自らの身体からのささやきに、ほとんど耳を傾けられていない。つまり他人には優しいですが、自身(の特に身体)には冷淡なのです。

身体は何かされるたびに「痛いよう、辛いよう…」と呻いているのですが、それに耳を貸さない。
そして、それが繰り返されることにより、やがては身体感覚が透明化してしまう。
すなわち、身体の発するイエローシグナルが読み取れず、脳が自己都合で暴走してしまうのです。

結果、突然のパニック発作を招来します。
これには、ご本人はびっくり。
”私の身体が急に反逆してきた”と受け取ります。

しかし、実際はそうでなく、身体は何度も何度もあなたに危機を訴えかけていたのです。
そしてさらに、このイエローシグナルさえも無視して突っ切ると、ついにはレッドシグナルが点ります。
これはすなわち、ガンや心臓病といった、もう引き返しができない重篤な病ということになります。
ここまで来て気づいたのでは、遅すぎます。

それゆえ、パニック障害治療では、ただ症状を消せばそれで完結、というわけにはいきません
上記の問題を勘案しなくては、同じことを繰り返し、やがては最悪の方向に向かうことになるでしょう。

ですから私は、必ず「身体感覚の再興」を大テーマとして掲げた治療を行います。
平たく言うなら、「生命の器である身体に感謝し、身体と仲良く生きていく」方向に進んでいくということです。

ただこれは、「言うは易し、行うは難し」です。
薬物治療で最も重要なのは、私が再三口にしている「官能的評価」ということになります。
kimo.dr-kumaki.net/kannouteki/
(難しければ、パスしていただいて結構です)

「たかがパニック障害、されどパニック障害」です。

どうかこのような身体の発するイエローシグナルを侮らず、自分の身体に真剣に向き合う契機にしていただきたい、そう思う日々です。

<※参考>


それは「拒食症」ではなくて、「嘔吐恐怖症」です ~嘔吐恐怖症、その原因と治療~

『体震わす電車運転士』 (「強迫神経症」についての臨床相談)

「もっと“だろう運転”しなくては」  ~強迫神経症者が抱える安全運転のジレンマ~

イップスの治療 ~競技人生、崖っぷちからの生還~


「セロクエル錠(クエチアピンフマル酸塩)で、 下痢型IBS(過敏性腸症候群)の症状が消えた」 という”ももさん”に対する回答 ・・(※IBS(過敏性腸症候群)についての、精神科薬物・漢方薬の小解説)

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